届屋ぎんかの怪異譚



笑っていいものかどうかわからず、銀花は曖昧な笑みを浮かべた。



あざみは未練があって現世に留まっている霊にしては、あまりにあっさりと己の死を認識している。


それもそのはず、彼女はただ、現世に残してきた恋人に、最後に一言伝えたいことがあるのだ。


それさえ済めば、すぐにでも成仏するのだろう。



『着きました』



あざみが足を止めたのは、「小間物さがみ屋」と看板を掲げた小さな店の前だった。



『この時間でしたら、保之助(やすのすけ)さまはお店にいるはずです。得意先のところへはいつも、お昼を過ぎた頃に赴いていましたから』



保之助、というのは、あざみの恋人の名だ。


小間物さがみ屋の跡取り息子で、保之助で三代目となるらしい。


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