埋火
壬生浪士
夜風は涼しく月が屯所を照らしていた。
満月の夜になると総司は試衛舘で過ごした日々のことを、いつも思い出すのであった。

江戸にいた頃、現在の日野市にある近藤周助の内弟子として総司は引き取られた。
当時まだ総司が九歳の頃である。
十二歳で目録、十五歳で免許を得て師範代を務めたが、総司にとってあっという間の出来事であった。
近藤、土方との出会い…
近藤、土方はこの陽気で明るい性格の天才少年を弟子のようにいつくしみ、沖田もまた二人を実の兄のように敬い慕った。
そんな二人の固い友情に年少の総司のひたむきな情愛が絡み合って、後に新撰組が登場することになったのだ。
 京に来てから一月も経たないうちに総司は京の生活にすっかり慣れていた。
近藤が以前、総司に『京は好きか?』と問いかけたことがあった。
総司はにっこり笑い、京の魅力のあれこれを語り始めた。
浪士たちは夜になると、喧嘩といわんばかりのどんちゃん騒ぎなどと、いつも騒がしく、総司はそんな浪士たちの姿をただ眺めてはニコニコと笑っていた。
この屯所で浪士たちと過ごす日々は総司にとってなによりも居心地のよいものであった。
幼い頃に父を亡くし、母と姉の元を離れ試衛舘に弟子入りした総司には、家族というものに強い憧れを持っていた。
 
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