埋火
医者へ
「近藤先生に頼まれた薬を取りに医者に行ってるだけです。」
 総司はそう言って原田を見た。
「そうか、総司。お前もなかなかやるじゃねえか。」
「だから、私はそんなんじゃ。」
そんな、からかう原田に総司は少し照れくさそうに膨れて屯所を出た。
 この前の騒動からというもの、静岡の院が一躍、有名となっていた。
『なにやら、腕のいい美人助手がいるそうだ』
そう言って、京の人々がその女の姿を一目見ようと訪れる始末であった。
 総司はそんな噂などまったく知らず、原田がある時こう言ったのだ。
「この前の女、どうも静岡先生の助手らしい。町の噂じゃ、これまた腕のいい、その上、美人がいるそうだと見に行く者も多いと聞いた。総司もさっそく会いに行ったのか?お前も隅に置けねえなあ。」
そんな原田の言葉に総司は首を横にした。
 しかし総司は近藤から頼まれている薬を取りに行くこと、
そのことをいつしか総司の中では楽しみとなっていた。
蒼祢に会えるかもしれない、という少しの期待と不安が総司の頭の中には巡っていた。
 「こんにちは。」
総司は静岡の院を訪れていた。
「これは、沖田様。」
中から蒼祢の顔が覗くと、総司はそんな蒼祢の顔を見るなり少し顔を赤くした。
「いつものお薬ですね。」
蒼祢の言葉に総司は、「はい。」と静かに呟くと、腰を下ろした。
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