埋火
総司がここにやって来ることはいつもの習慣のようなものになっており、二人はこうやって少しの時間ではあったが、色々な話をした。
蒼祢はそんなに口数の多い女ではなかったが、いつも蒼祢は総司になにくれとなく問いかけた。
江戸にいた頃の話や、幼い頃の話。
蒼祢も総司と同じように江戸で生まれ、育った。医者であった父の死後の後で京に上りここにやってきたのだ。
そんな共通点もあってか話が盛り上がっていった。
今まで、まともに女と口を聞いたこともなく、口下手な総司はいつも困るばかりであった。
しかし、そんな総司の姿に蒼祢はどこか新鮮で居心地のいいものとなっており、この二人の時間は2人にとって貴重なものとなっていった。
「沖田様も先生に診てもらってはどうでしょうか。」
「いえ、私は別に。」
蒼祢も土方と同じようなことを言うと総司は心の中で思っていた。
蒼祢も総司の妙な咳について疑問に思っていたのだ。
 そんな蒼祢の心配ですら総司は、
「嫌ですね、蒼祢さんまでそんな私を病人扱いして。私の兄として慕っている人もそう言ってるんですよ。」
と笑っていた。
 しかし、ある時、総司は態度を変えた。
何度も繰り返される蒼祢の言葉に総司は
「分かりました。」
と頷いたのだ。
 診察の結果は、幼い頃からの軽い喘息だと告げられた。
とりあえず薬を渡され、飲むようにと静岡に申し付けられた。
しかし総司は、大丈夫とばかりに、またも嫌がり笑った。
そんな総司の様子にも蒼祢は
「ちゃんと飲んでください。」
と強い言葉で返され、総司は小さくなっていた。
 それからも総司が度々、この場所へ訪れていたが、総司は蒼祢に言えないままであった。
蒼祢はそのことをまだ知らずにいた。
 総司が新撰組の沖田総司であるということを。












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