埋火
沖田総司と斉藤一

総司はある晩、ひどくうなされ、目を冷ました。
夢をみた。
その夢はというと、蒼祢を自分の手で斬っていたというものであった。
総司は飛び起きると額にうっすらと浮かんだ汗を手で拭った。

先日、近藤と土方に呼ばれた総司は二人のある提案に目を丸くした。
いきなり総司を呼びつけたと思えば、
「総司、嫁をめとらんか。」
と近藤が言ったからである。
総司は驚いて目を丸くしたものの、すぐさまいつもの陽気な総司に戻ると続け様にこう言った。
「やだなぁ、近藤さんも土方さんも。私はまだそんな気なんてありませんよ。」
と笑ってみせた。
しかし近藤はそんな総司の話など聞きもせず、話をはじめた。
「あるお久家さんの娘さんが、どうもるお前を見初めて、是非にと言っておるようでな。」
総司は再び目を丸くした。
実はこういった話であったのだ。
先達て祇園で火事があった。その時に逃げ遅れた一人の女を助けたことにより、
向こうが見初めて『是非に』と向こうから近藤に話を持ちかけてきたのだ。
しかし総司はというと、
「あの時に斬った男は覚えているのですが。」
と言い話を反らした。
名の知れた久家の娘さんだといい、
「とにかく縁談だ。」と言い引かない。
そんな近藤に総司も
「お断りしてください。」
言うと部屋を出た。
土方は総司の後を追った。
「何故だ。ほかに惚れた女でもいるのか?」
と土方は総司の肩に手をかけた。
一瞬なぜか総司の頭の中に蒼祢の顔が浮かんだが、総司はすぐさま消しさると土方に笑ってみせた。
「いませんよ。ただ嫁をとる気がしないだけです。」
土方はそんな総司の後ろ姿をじっと見つめていた。
それから土方は部屋に戻ると近藤が呟くように言った。
「歳よ。こんなご時世だ。いつ何があるとも限らん時だ。
総司には少しでも早く身を固めて跡継ぎを作ってほしんだよ。」
< 12 / 52 >

この作品をシェア

pagetop