埋火
総司はそれから自室に戻ると考えていた。
蒼祢のことを考えていたのだ。
なぜ、土方に『惚れた女でもできたか。』と問われた際、蒼祢の顔が思い浮かんだのか。自分では認めたくないほど自分の中で蒼祢の存在が大きくなっていたのだ。
総司は夜も更けたころ、一向に眠りにつけないまま道場に向かった。

冬が近づいていた。
夜風に吹かれると身が締め付けられるかのように冷たく、どこか切なくなった。
斉藤は一人、夜の町を歩いていた。
屯所を出る際、一人の隊士に『どこに行かれるんです?』と問いかけられ、斉藤は『巡察だ』と答えた。すると、隊士はそんな斉藤に『お供します』と言うと後を追った。しかし斉藤は隊士を跳ね退けるかのようにし屯所を出た。
斉藤は一人になりたかった。
斉藤一は新選組、二番隊隊長で、新選組の中でも沖田総司と一、二を争うほどの腕の持ち主である。
また斉藤は単独で行動することが多く、口数も少ないこともあり一見、新選組の中でも変わり者で謎めいた存在となっていた。
巡察だと言い屯所を出たがそれは口実であって、そんな口実は斉藤にとっては何でもよかった。
ただ一人になりたかった。
夜も更けた頃、斉藤は町の外れの寂れた小さな門を開き、中に入った。
店の中には一人、二人の客と斉藤だけであった。
まだ開いているかと斉藤が尋ねたところ、はいと亭主は言い、続けて何にされますかと問いかけた。
斉藤は日本酒を一本とだけと答えるとゆっくりと席についた。
『最近は何を飲んでも血の味しかせん。』
斉藤は心の中で呟くと、昨日の夕刻のときに斬った何人かの志士たちを思いだした。
京の町ではさらに争いが増し、毎日数えきれないほどの剣を振うことも少なくなかった。
『やはり血の味しかせんな。』
斉藤は一本をちょうど飲み終えたところで手をとめた。そして代金をそっと置くとゆっくりと店を出た。
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