埋火
元治元年六月五日、夜四つの出来事であった。
土方が池田屋にたどり着いた頃には、二十数人が死を決して戦い、藤堂は深手を負って土間に転がっていた。
「平助、死ぬな。」
土方が声をかけると、奥から出てきた一人を斬りはなった。
 二階では近藤がなお戦っていた。
戦闘したのは新撰組であった。
「おい、総司はどうした。」
土方が声を張った。
戦いを終え、帰営しようとした浪士たちの中に総司の姿が見えない。
永倉は藤堂の頭に手拭いをかけながら言った。
「総司は上だ。」
「土方先生、沖田先生が…」
2人の浪士に連れられ、総司は抱えられるかのように上からゆっくりと降りてきた。
だんだらが真っ赤な血の色に染められ、すっかり弱った総司の姿が見えた。
「総司!!」
近藤が声を張った。
「こりゃあ、返り血だ。」
土方が小さな声で呟くと、浪士たちに急いで総司と藤堂を医者に連れて行くようにと命じた。
「総司のやつ血吐いて倒れやがった。」
同じ2階で戦っていた近藤は土方にそう言った。
総司は何も考えることもせず、ただ生死の境目をさまよっていたのだ。










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