埋火
「御免。」
戸を叩く音がして、静岡はそっと戸を開けた。
「新撰組でござる。夜分申し分けない。患者をみてもらいたい。」
静岡は目を大きく開き浪士たちのむこうに見える藤堂の姿を目にした。
「早く中へ。」
静岡は、そう言って中に患者を入れるようにと言った。
藤堂は深手を負っており重症で、血が止まらなかった。
静岡は、藤堂の体を見るなり、手当てを始めた。
 この騒動により、事態の異変に気付いたのか、奥から蒼祢がかけつけた。
蒼祢は、藤堂の血にまみれただんだらを目にした。
新撰組……
「その方の患者をみてくれ。」
蒼祢は静岡に命じられると、蒼祢は着物の裾を上げた。
「総司さま……」
そこには確かに総司の姿があった。
蒼祢は一瞬止まったが、すぐさま手をのばした。
総司の体は熱く、熱を発していた。
静岡の院では朝まで静岡と蒼祢の必死の手当てが続いた。
この夜、逃亡した志士達の検査に当たった幕府軍は京都守護職の会津所司代の桑名をはじめとする数藩の連合軍で、その数は三千とも伝えられる。
池田屋に集まっていた志士たちの数が二十数名に過ぎず当初斬り込んだ新撰組を思えば幕府の軍がいささか滑稽でさえある事件だったといえよう。
 新撰組がこの池田屋事件により全国に勇名を馳せる存在となったことはいうまでもない。
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