埋火
三条大橋
蝉の音が響きわたる屯所の中で総司は一人、床に臥せていた。
元治元年、新撰組の屯所では夏を迎えていた。
「おい総司、大丈夫か?」
襖の向こうから原田が声をかけた。
床に横になっていた総司はゆっくりと起き上がると原田に笑いかけた。
「やめてくださいよ、原田さん。もうすっかりいいんですから。」
池田屋の斬り込みにあたって新撰組には大きな働きをしたと恩償金が出されていた。
その恩賞金を手に浪士たちは馴染みの女に会いに島原に出向く者も多かった。
そんな中で総司は1人、床に臥せていた。
総司が池田屋で血を吐いて倒れてから、土方に命じられるがままに自室で床に臥せていたのだ。
総司が蒼祢と静岡の懸命なほどこしを受けて病状が落ち着くと、しばらくして屯所へと移された。
沖田はそんなことも知るよしもなく、生死の境目をさ迷っていた。
 総司は自分の体に起こっている異変を分かっていたのだ。
しかし、土方や近藤にも言うことなく、ただ、私は大丈夫ですから、と笑うだけであった。
 総司は自室で天を仰いで一人、考えていた。
池田屋での斬りこみ、自分が血を吐いて倒れたことなど、鮮明に浮かび上がっていた。
そして、そんな総司の頭の中を駆け巡っていたのは蒼祢であった。
池田屋で倒れてから記憶がない。気が朦朧とする中で、かすかに思い出すこと、覚えているのは、静岡の元での蒼祢の姿。蒼祢が自分を助けてくれたのだ…
 原田が総司の部屋を出ると、しばらくして土方の声がした。
「総司、医者が来たぞ。見てもらえ。」
そしてそこには静岡の姿があった。土方が席を外すと、そこは総司と静岡の二人だけであった。
「心配しておりましたよ。」
「はあ。」
総司は静岡が何を言っているのか、まったく事が分からず、総司はうかない顔をして曖昧な返事をした。
静岡は総司の肩に手をかけた。
「うちの者が、沖田先生にくれぐれも無理をせずにと言っておりましたので。」
総司は、はっとした顔をして何も言わず下を向いた。
それから静岡は何も言わず、診察を続けた。
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