埋火
「何!?縁談はなかったことにと!?」
数日後の夜、近藤は総司を呼びつけると、声を張った。
「しかし、総司。むこうは是非にと。」
近藤がため息をつくと、総司は
「むこうには私から先にお話しましたので。」
と頭を下げた。
そんな姿に近藤は何も言えれず、部屋を出る総司の後ろ姿をただ黙ってみていた。
 土方は近藤に声をかけた。
「たぶんあいつ、他に惚れた女がいるらしい。」
そんな土方の言葉に近藤は何も言うこともなく、茶をすすった。 

 総司はその夜一人、静岡の院へと向かった。
蒼祢はいるかと静岡に問うと、外出中だというので総司は院を出た。
三条大橋……
総司の頭に三条大橋が浮かぶと、なぜかそこに蒼祢がいるのではないかと考えた。
冷たい風が総司の体を締め付けた。冬の寒さに比べれば、たいしたことないはずなのに、総司の体は冷めていた。きっと心の方が冷めているのだろう、そう思った。
三条大橋にたどり着くと、総司は立ち尽くしたまま、通りゆく人々を何気なく見ていた。
「迷い猫をお探しですか。」
聞きなれた声に総司は目を見開いた。
白梅香の香りと共に蒼祢の姿が人ごみの中から見えた。
 迷い猫……
総司はその意味が分からなかった。
蒼祢はゆっくりと総司の隣に並ぶとしゃべり始めた。
「家に帰りましたら、先生から総司さまが来られたと。」
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