埋火
しかし、近藤は
「変わった様子もない、気のせいじゃねえか?」
と、ただ笑うだけで聞きもしなかった。
そんな適当な近藤の態度に堪りかねて土方はこう言った。
「どうも総司のやつ、女らしいんだ。」
「女!?あの総司がか?」
急に近藤は外に傾けていた身を土方の方へと向け、身を乗り出した。
「ほお~どんな女か見てみたいもんだ。」
近藤は半信半疑で少し笑うと、湯のみに手を伸ばした。
「俺も見ちゃいねえが、左之が言うには、総司のやつ毎日その女に会いに行っているらしい。」
そんな土方の言葉にも近藤はただ笑いながら茶をすすっていた。
 「近藤先生、静岡先生の使いの方がお見えです。」
一人の浪士が襖の向こうから声をかけた。
近藤は部屋に通すようにと浪士に命じた。
 部屋に通すと近藤は一瞬黙り込み、唾を飲み込んだ。
そこにいた浪士や土方でさえも、その姿に見とれていた。
静かに頭を下げると長い結った髪が静かに風に揺られた。
『なんて綺麗なお辞儀をする女だ』
と土方は思った。
そこには蒼祢の姿があった。
「これは驚いた。静岡先生の言っていた通り、いやそれ以上の美人だ。」
近藤は蒼祢の目を見た。
「初めてお目にかかります。蒼祢と申します。以後、お見知りおきを。
静岡先生から預かっておりましたお薬の方をお持ちしました。
近藤先生がお飲みになられるのですか?」
「ああ、この頃また風邪がぶり返したようで―
「近藤さん!」
ガラリと音がして勢いよく襖が開いた。
するとそこには原田の姿があった。
「あっ…こりゃ、どうも…」
蒼祢の姿に気付くと原田は申し分けなさそうに頭を下げた。
そんな原田の姿をみて蒼祢はこう言った。
「お久しゅうございます。」
「先日はありがとうございました。」
原田は少し照れながらペコリと頭を下げた。
「いえ、たまたま通りかかっただけですから。」
近藤も土方もそんな2人の会話を耳にし目を丸くさせた。
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