埋火
ちょうど巡察を終えて屯所に戻ってきたところであった。
「このごろ来られないので心配しておりました。
今日は静岡先生の使いで近藤先生のお薬をお持ちしたんです。」
「そうだったんですか。
毎日伺ってはやはり迷惑ですよね。」
総司が少し小さな声で言うと蒼祢は笑ってこう答えた。
「いいえ。また寄ってください。
私も総司様にお会いできるのを楽しみにしておりますので。」
総司の顔が少し赤らんだ。
しかし、そんな蒼祢の言葉に安堵の表情を浮かべると
「はい。」
と笑った。
蒼祢はもう一度、静かに頭を下げるとゆっくりと頭を下げ屯所を後にした。
そんな蒼祢の姿を総司はただずっと眺めていた。
蒼祢の姿が消えていくまで。
 総司は屯所に戻ると、近藤、土方が出迎えた。
「総司、いい女じゃねえか。」
近藤は総司の肩をポンっと叩くと笑った。
「ああ、近藤さんの言うとおりだな。」
土方も笑いながらそう言って、総司の肩を叩いた。
「えっ…?何のことですか?」
総司は何のことかすら分からず目を丸くした。
そして目の前にいた原田に目を移した。
「わりい総司、ついな。」
原田は意地悪に笑うと舌を出した。
「原田さん…」
総司はそんな原田の言葉に深くため息をつくと、
「私は別に…」
と少し照れくさそうに顔をそむけた。
近藤も土方もそんな総司の顔を見ては笑っていた。


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