埋火
山南敬助
新撰組副長の山南敬助が、近藤あてに書きを残して隊を脱走したのは、慶応元年二月二十一日のことである。
その理由は未だはっきりしない。
「いいひとだったですよね。」
土方の部屋にやってきた総司は静かにそう呟いたが、その声はどこか低く暗かった。
いつも明るすぎるこの青年ですら、めずらしく沈んでいた。
総司と山南はし試衛舘時代から仲がよかった。山南は総司より10歳の年長で、総司を弟のように可愛がっていた。
「総司。」
土方が冷たい声で呼んだ。
「お前が行ってくれ。」
そんな土方の言葉に総司は何も言わずにただじっと土方の目を見ていた。
「今すぐ馬で追えば追いつくだろう。」
――江戸へ帰る。
山南が近藤にあてて書いた手紙にはそう記されていたのだ。
今から追えば、大津あたりで追いつくであろう。
総司は自分が?といった表情ををうかべた。
むろん土方がその役目を総司に命じたのは、腕のすぐれている総司であるからか。
そんな理由で命じたのではない。
総司は分かっていた。
総司は土方が自分を命じた理由を分かったからこそ、少し笑ってこう答えた。
「はい。」
土方はじっと総司を見つめた。
そんな土方にまた総司も急に明るい笑顔をむけた。
総司は馬に乗ると屯所を出た。
駆けた。
大津へと馬を駆けらせて向かう途中で、総司は山南と過ごした日々のことを思い出していた。
山南さん、いったいなぜ……
大津の宿場はずれまできたときであった。
「沖田君。」
急に呼ぶ声が聞こえて馬の上から辺りを見回した。
茶店の中から山南があらわれた。
その理由は未だはっきりしない。
「いいひとだったですよね。」
土方の部屋にやってきた総司は静かにそう呟いたが、その声はどこか低く暗かった。
いつも明るすぎるこの青年ですら、めずらしく沈んでいた。
総司と山南はし試衛舘時代から仲がよかった。山南は総司より10歳の年長で、総司を弟のように可愛がっていた。
「総司。」
土方が冷たい声で呼んだ。
「お前が行ってくれ。」
そんな土方の言葉に総司は何も言わずにただじっと土方の目を見ていた。
「今すぐ馬で追えば追いつくだろう。」
――江戸へ帰る。
山南が近藤にあてて書いた手紙にはそう記されていたのだ。
今から追えば、大津あたりで追いつくであろう。
総司は自分が?といった表情ををうかべた。
むろん土方がその役目を総司に命じたのは、腕のすぐれている総司であるからか。
そんな理由で命じたのではない。
総司は分かっていた。
総司は土方が自分を命じた理由を分かったからこそ、少し笑ってこう答えた。
「はい。」
土方はじっと総司を見つめた。
そんな土方にまた総司も急に明るい笑顔をむけた。
総司は馬に乗ると屯所を出た。
駆けた。
大津へと馬を駆けらせて向かう途中で、総司は山南と過ごした日々のことを思い出していた。
山南さん、いったいなぜ……
大津の宿場はずれまできたときであった。
「沖田君。」
急に呼ぶ声が聞こえて馬の上から辺りを見回した。
茶店の中から山南があらわれた。