埋火

三条大橋の上で総司はいつものように川を見つめていた。
冬の寒さが身に凍みるように、総司の心にも冷たい風が差し込んでくるかのような冷たさがあった。
しばらく橋の上から川を見ていたが総司は下に降りると、川原にそっとしゃがみ込んだ。
水と波打ち際にはほのかに氷がはっており、京の冬の寒さがよりいっそう感じられた。
総司はあれから山南の切腹、自分が介錯をつとめたことをなぜか繰り返されるように頭を駆け巡っていた。
そして、明里と山南が交わした最後のときを総司は思い出すと、なぜか自然と蒼祢の顔を思い出していた。
「総司様。」
後ろから呼ぶ声がして掃除は、はっとして後ろを振り返った。
そこには少し寒さのためか赤らんだ頬をした蒼祢の姿があった。
総司は一瞬、驚いた顔をしたがすぐに我に返ると蒼祢に笑いかけた。
「こんなところで何をされているのかと思えば。先ほど、橋の上を通りかかりましたら、上から総司様のお姿が見えていたので。」
そう言って蒼祢は少し笑った。
 総司が蒼祢に会うことは久しぶりのことで、最近ではめっきり静岡のところにも姿を見せなかった。
それはなぜだか総司にとっては自然なことで、なぜか、蒼祢に会うと山南のことを余計に思い出してしまうからであった。
その上、山南の一件の整理というものが、総司の頭の中ではまだできておらず、総司の心境としては複雑なものであったのだ。
こほっ。と総司が少し静かに咳をすると蒼祢は急に表情を変えた。
「こんな寒いのにまたこんなに出歩いて。お体にさわります。それにお薬も飲まれてないでしょうに。」
少しきつく蒼祢が言うと総司は小さくなって、「はあ…」と呟いた。
蒼祢は、山南の一件について知っていたが、総司にはそのこと一言も口にしなかった。
そのことが総司の心情にも大きく関係しているということは確かで、そんなことを蒼祢は察していた。
そんなことも知っているからゆえに、蒼祢は総司の体を心配していた。心の変化は体にも大きく関係してしまう、それが池田屋の斬り込みで血を吐いたというのもつい最近の出来事であったからこそ、蒼祢は心配していたのだ。
「また、薬をとりに行きます。」
総司は笑ってゆっくりと川の辺から離れようとした。
蒼祢はそんな総司の横顔がどこか切なく寂しそうに思えた。
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