埋火
大政奉還
思いも寄らないことが、沖田総司、新撰組の前に起きていた。
 慶応三年十一月十八日、油小路で伊藤甲子太郎を斬ってから間もないことであり、近藤の様子にも異変が起こったのだ。様子がおかしくなった近藤は度をうしなったのであろう。
大政奉還。
天下はいったいどうなるのであろうか。
「だいじょうぶだ。」
とだけ近藤は言ったが、総司は、どっちつかずの微笑で枕の上から土方を見上げた。
「総司、早く元気になれよ。」
「はい、分かってますよ。」
今日の土方の様子が少しおかしく、変わっているように総司は思えた。
「なあ総司、おらあ、最後の一人になろうとも、やるぜ。」
総司は、そんな土方を見ながら心に決めていた。
「私は、土方さんについてゆきます。」

大政奉還から二ヶ月たらずの慶応三年十二月九日、王政復古の大号令がくだった。
 幕府は、慶喜の大坂くだりとともに今日を去った。むろん、会津藩も。
ところが新撰組だけは、「伏見鎮護」という名目で、伏見奉行所に駐められた。
幕府の首脳部としては、「いつ京都と薩摩と大坂の幕府のあいだに戦いがはじまるかもしれぬという理由で、大坂からみれば最前線の伏見に新撰組を置いたのである、。
「なんという名誉であろうか。」
近藤もさすがに喜びを隠せない様子であった。もし、開戦となれば、薩摩と最初に火ぶたを切るのは、新撰組であろう。
「お前も嬉しいだろう。」
「ああ。」
そう言って微笑をうかべた土方は、いそがしくなった。花昌町の屯営を引き上げ、武器の準備や隊の軍資金のは分配、指揮などは隊長に職務であり、あすの十二月十二日には出発しなければならなかった。
今夜限りの京だ。文久三年に京にのぼり、さまざまなことが、この都であった。
 












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