埋火
総司の視線の先には蒼祢がいた。
蒼祢は橋の上からどこか遠くを見ていた。
総司はそんな蒼祢の姿をも見て、なぜか、いつも以上に美しく感じた。
それはまるで、月夜が蒼祢を美しく照らしているかのようであった。
総司はそんな蒼祢をしばらく見つめていた。
いや、見つめているのではない、見とれていたのだ。
蒼祢と出会った日々のこと、蒼祢とすごした日々のこと……
思い出のように総司の頭の中を駆け巡っていた。
そんな蒼祢との日々はあっという間の出来事であった。
 蒼祢は総司の姿に気付くと、静かに笑い頭を下げた。
それは、いつも総司に見せるいつもの笑顔とはどこか違っていた。
総司はゆっくりと歩き出すと、蒼祢の目の前で足を止めた。
 蒼祢は分かっていた。
総司が自分をここに呼んだ理由を。
 総司はいきなり口を開いた。
「あなたと出会って、私はずいぶん変わったようです。」
そんな総司を蒼祢はじっと見つめた。
『新撰組として私は、近藤さん、土方さんのためならば、いつでも死ねる。そう思ってきました。その気持ちは今でも変わりません。
けれど、蒼祢さんと出会ってから、少しでも長く生きていたい。そう思い始めました。」
蒼祢の目は潤んでいた。
「総司様、私はこれからも総司様と一緒に…」
「蒼祢さん。」
総司は蒼祢の口をふさぐと総司は蒼祢の肩を引き寄せた。
「今までありがとう。」
蒼祢は総司のその言葉を聞くと蒼祢の目から大きな涙が零れ落ちた。
何も言葉が出てこず、ただ、ただ、蒼祢は泣きながら首を横に振っているだけであった。
総司が、そんな蒼祢の肩をきつく抱きしめると、白梅香の香りがした。
この香りがなぜか、総司にとっては懐かしく思えた。
 それから、しばらくして、総司は蒼祢からゆっくりと離れた。
そして、総司はゆっくりと歩き出した。
 蒼祢はその場に泣き崩れ、去って行く総司の後ろ姿を見ていた。
空には、月が美しく、どこか悲しげに輝いていた。
   


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