埋火
蒼祢と市村鉄之助
『門の前に人が立っています』
市村はそう言って沖田が寝ている二階へとやってきた。
それからしばらくして、土方は二階から降りて門へと向かった。
『よく見えない…』
何人かの浪士たちが少し離れた場所で、壁越しから門を見ており、土方を遮っていたのだ。
土方はその浪士たちを押し退けるかのようにし、前へと進んで行った。
「蒼祢さん!!」
その声に気付いたのか、門の前に立っていた女はゆっくりと振り返った。
『懐かしい横顔だ』と土方は思った。
蒼祢の長いまつげが動いた。
「土方様、おひさしゅうございます。」
そう言って頭を下げた。
『美しいお辞儀をする女だ』土方はいつもそう思っていた。
それにしても驚いた。京を離れてから蒼祢に会おうとは思っていなかったからだ。
沖田が蒼祢に別れを告げたことを、土方は知っていたからだ。
土方は沖田から直接聞いた分けではなかったのだが、『そうであろう』と察していたのだ。
いつの間にか、浪士たちはいなくなっていた。
「蒼祢さん、総司は元気ですよ。」
「そうですか。」
蒼祢は一言、そう言って静かに笑った。
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