埋火
京にいるころ、土方は蒼祢と沖田のやり取りを見るのが好きだった。
「これを…」
蒼祢は、小さな包みを取り出した。
「これを、お渡しになっていただけますか?」
それは薬であった。
京にいた頃、沖田が飲んでいたものであった。
飲んでいた、というよりは飲まされていた、といった方が正しいのかもしれない。
「分かりました。」
土方は一言そう言うと包みを受け取った。
蒼祢は頭を下げた。
「それでは―
「会って行かれないのですか?」
「いえ、私は…」
静かに笑った横顔は、少し悲しげに見えた。
『本当は、総司にどれだけ会いたいことだろうか。ここに来るまでに、どのくらいの苦労があったか。しかし蒼祢は、会ってはいけない…そう、自分に言い聞かしているのであろう』と土方はその場でそう感じ、受け止めた。
屯所から出て行く蒼祢の姿を見送ると、中へと入っていった。
そして、沖田の寝ている二階へと向った。
そこには、市村がいた。
市村は十六歳(今でいう十五歳)の若い青年であった。
入隊してからというもの市村は、沖田の小姓として、『沖田を介抱せよ』との土方の言葉進り、沖田の傍から離れない。
入隊当時、土方は市村に『総司に似ているな』と言ったことがあった。
それが市村にとって、励みとなっていたのだ。
「土方先生、先ほどの方は?」
市村がそう尋ねた。
「薬屋だ。」
土方は低い声でそう言った。
「ほら総司、薬だ。」
< 43 / 52 >

この作品をシェア

pagetop