埋火
『驚いた』
屯所から少し離れた場所にある川沿いに蒼祢は立っていて、遠く離れた場所…それは土方にも何処を見ているか分からない所をみているようだった。
蒼祢は土方に気付いたのか、あたふたして何か言おうとし、それでも何を言っていいのか分からない様子であった。
「少し話しましょう。」
土方のその言葉で蒼祢は急に安心したような、どこか落ち着いた表情を浮かべた。
蒼祢と土方は川沿いを歩きながら話した。
『気の強い女だ』土方も京にいる頃、そう思っていたが、みなそう言っていた。
だが今この目の前にいる蒼祢はそんな以前の蒼祢ではなかった。
何処か、もの悲しそうで…
土方は『市村鉄之助』の話を蒼祢にした。
その市村鉄之助に蒼祢は興味を持ったのか、市村について詳しく聞きたがった。
『総司に似ているんですよ。』と土方が言ったことが、蒼祢をそうさせたのであろう。
「土方様、お願いがあります。その、市村様という方に一度、お会いしとうございます。」
土方はその願いを了承した。
屯所に戻ると市村は土方に呼ばれ、市村は自分が何故この場に呼ばれたのかと、とただただ驚くばかりであった。

蒼祢はにっこりと笑って
「あなたが市村様ですね。」
といった。
それから戸惑うばかりの市村に
「少しお話しなさいませんか?」
と言うのだから市村は困った。
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