埋火
「市村様も無理やりにでも飲ませて下さい。あとは、無理はせず、安静にしているよう強く言って下さい。私はいつもそうやって無理やり薬を飲ませたりしていましたから。」
『この女性が!?』と市村は驚き「本当ですか?」と尋ねた。
市村の質問に蒼祢は「そうですよ。」と言って笑うだけであった。
「ですが、今日、沖田先生に持ってこられたあのお薬…京にいた頃もちゃんとお飲みになられていたのでしょ?」
「いいえ。先ほども言ったように、まったくお飲みになられなかったのですよ。」
市村は蒼祢が今日、持ってきた薬のことが気になっていた。
京に」いた頃は、いつもは飲まなかった…だが、今日は飲んでいた…
「市村様は、土方様がおっしゃった通りです。本当に、市村様は、総司様に似ておられる。」
「はぁ…」
市村は顔を赤らめた。
「ですが、私はまだまだ未熟です。力不足で、同士のみなさんにも迷惑をかけるばかりで…けれど、沖田先生は命に代えてでもお守りする覚悟でおります。」
「よかった。」
蒼祢は静かに笑った。
けれども、市村は何がよかったのか分からない。
「あなたはもう立派な新撰組の一員です。総司様には、こんな心強い方が傍に仕えておられる。きっと総司様も幸せでしょう。私も安心しました。本当によかったと…」
市村は黙っていた。
蒼祢は下を向いていたが、その目には少しながら涙が潤んでいた。
『この方はもしかすると…』市村はそう思うと急に沖田の言葉を思い出した。
二階の床で、薬を飲んで背を向けると「元気でしたか?」と静かに呟くように言った、あの言葉を。
「総司様に会いとうございます…」
これが蒼祢の本心であった。
市村はようやく、この時、蒼祢の正体が分かったのであった。
蒼祢が沖田に対する想いを強く感じさせた今の言葉と、沖田が二階の床で呟いた、あの様子とが市村の頭の中では、交錯していた。
土方が言わずにして、蒼祢が薬を持ってここまで、やってきたのだと沖田は感じ取ったのであった。
理由は分からない。理由は分からないが、祢は沖田と会えない分けがあるのであろう。
そう市村は思い、また、目の前にいる蒼祢を見て、沖田を自分の命にも代えて守らなくてはならないと、改めて思うのであった。






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