埋火
大坂
土方は、無傷の者は徒歩で南下させ、負傷者は三十石船に収容して大坂へくだった。
『負けたかねえ』
土方はそう心の中で呟くと、めっきり変わり果てた隊士たちの顔をみつめた。どうみても敗軍の兵であった。威勢のいい原田にすら疲れきっており、槍によりかかるかのようにして歩いていた。
みなが、精も根もつきている様子であった。
「みな、大坂城がある。」
土方はそう言ってはげました。土方は『まだやれる』そう言いきかせた。
大阪城には幕府の無傷の士卒が数万、武器もある。
「大坂で、戦のやりなおしをするんだ。」
その言葉にみなを鼓舞した。
『おれは間違っていない…』
 西南の天守閣が見えたとき、土方は声をあげた。
『みろ。あの城がある限り。』
 しかし、まったくの静けさで、声、音すらしない。みな、伏見口で銃火をあびた。薩長軍の銃は会津藩の銃が一発うつごとに十発うつことができた。
『世の中が変わった』
その実感が、あびせられた銃火とともに、みなの体にひしひしと感じていた。

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