埋火
いつものように総司は原田と共に巡察に出かけた。
外は蒸し暑く、緑の生い茂った木が、既に夏の気配を感じる季節であった。
「総司、ちょっと寄っていこうぜ。」
原田はにやにやとした笑みを浮かべ、総司の肩を引っ張った。
と、いうのは原田は島原に行きたかった。
「いえ私は、そういうのは…」
「なに言ってんだ総司、いいぞ島原の遊女は。お前も一回くらい行ってみたらどうだ?」
そんな原田の言葉にも総司は、
「私はいいですよ。」
と言葉を洩らすだけであった。
 島原は屯所から近いこともあって浪士たちはよく出かけていた。
手当てや見舞金、特別金が出た際には必ずと行っていい度、島原や祇園へと出向いては遊ぶことを楽しみとしていたのだ。
 橋を渡り終えたところで、なにやら騒動が起きていた。
「原田さん、なんだか騒がしいようですね。」
「ああ。そうみてえだ。」
総司と原田は人だかりができている場所へと向かった。人ごみのせいか、よく見えない…
二人は、人ごみをかき分けるかのようにして、前へと進んだ。
すると、そこには武士らしき一人の男を三人の隊士たちが囲んでいた。
総司と、原田に気が付いた浪士たちは、頭を下げた。
「どうした?」
原田は浪士たちに問いかけた。
「この者、どうやら長州の者です。」
 この頃、長州の者は京に出入り無用となっており、それが分かれば、獄死か打ち首である。
「俺は新撰組の原田左之助。名前と生国を教えてくれねえか?」
「けっ、新撰組か。でしゃばりやがって。」
男は唾を吐くと刀を抜いた。
「きゃっ。」
観衆の中から女の声がした。
 今まで黙って様子をみていた総司も、刀に手にした。
「総司、ここは俺1人で十分だ。」
原田はそういって笑った。




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