埋火
土方は、新撰組宿陣にわりあてられている大坂代官屋敷に入った。そして、近藤を訪ねた。
近藤は、内本町の御城代下屋敷で、傷療養中だとのことであった。土方は教えられた部屋の講紙障子を開けた。
そこには、近藤が一人寝ていた。
「トシか。」
「敗けてきた。」
近藤は知っているといった顔で土方を見上げうなずいた。その目は、ひどく疲れきっていた。
「ご苦労だった。」
その後、土方は話を変えるかのように、傷はどうだ、と尋ねた。
それから、しばらく隊士の動き、戦状などを語った。
 次に、総司の部屋を訪ねた。
「土方さん。」
明るい微笑であった。
そんな総司を目にし、土方は安心した表情を浮かべ、言った。
「しゃべるな。この病は疲れを取っちゃいけねえ。」
「みなさんは元気ですか?」
土方の顔が少し曇った。が、しかし、総司には隊士の様子、戦状すら言わなかった。
「ああ。」
その返事に総司も安心し
「そうですか。」
と言うと、また静かに目を閉じた。
『総司のやつ痩せやがったな。』
土方は総司の痩せ細った手を取った。
そこのは、かつて京に血の雨を降らすと謳われた天才剣士の面影はなかった。
土方もまた、座ったまま静かに目を閉じた。
京にいた頃…
静かに時間が過ぎていく中で、土方自身もまた、静かに思い出を甦らせていた。
『慶喜が逃げようと、おれは戦う。おれァ、やるぜ。』
土方には喧嘩の本能しかないのだ。
 土方は翌朝まで総司の傍にいた。








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