埋火
総司は自分の一生を振り返るかのように、一つ一つの出来事を思い出していた。
そんな総司の頭の中には京での出来事が鮮明に浮かんでいた。
京では数え切れないほどのたくさんの人を斬った。
死んだものはいったいどこに行くのであろうか。自分も死ねばいったいどこに行くのであろうか。妙に気になった。
しかし、そんなことはくだらないことだと思いつつ、思い浮かんでくるもの、自分の人生が、ひどくはかないものに思えてきた。
その瞬間ふと総司の目の前に、蒼祢の澄んだ横顔が現れた。
総司はかすかに開いた目を精一杯に開くと、蒼祢に手を伸ばした。
蒼祢は、そんな総司に笑いかけると、何かを言おうとしていた。しかし、その瞬間、総司
が咳をすると、咳とともに消えていった。



 それから、一ヶ月あまり経った慶応四年、五月三十日のことであった。
総司は分かっていた。自分がもう長くないことを。
 死は突如あらわれた。
総司は、枕の上に置いてある愛刀に精一杯手を伸ばした。それを軸にするようにして総司はゆっくりと起き上がると、前に少しずつ歩きだした。そして、縁側に這い出ると、総司はゆっくりと腰に手を伸ばした。
かすかに鳴き声がしたかと思えば、縁側に植えてあった木の影からゆっくりと黒猫が顔を出した。
総司はその黒猫を見ると、菊一文字を抜き出そうとしたが、そのまま前に倒れ、突っ伏せた。総司は菊一文字を抱きかかえた。
『青春は終わった。』
その瞬間、強い風が吹いたと思えば、白梅香の匂いがした。香りの先には蒼祢が静かに笑っていた。

 総司の死の前月、二十五日に近藤は板橋で斬首された。
当時なお、総司は病床にあり、このことは総司の耳に伝わらず、息をひきとるまで、近藤は健在だと信じていた。
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