埋火
 男は、原田をじっと見つめかまえると、飛びかかった。
原田はすかさず、すきを突いて男の背中に斬りかかった。
 男は倒れると、3人の隊士たちがその男を囲んだ。
「やっちまった…」
原田は苦笑いで総司を見ると、右手から滴り落ちる赤い血に総司は驚いた。
「原田さん、大丈夫ですか!?」
「いやあ、どうも参った。手元がにぶってるようだ。」
原田は右手を片方の手で押さえた。
「医者だあ~誰か医者を。」
観衆の人々の中から声がした。
どうやら、浪士たちが来る前に男と口論になったのか、手傷を負った町衆の男がそこにはいた。
沖田は手にしていた手ぬぐいを取り出した。
「総司、おれは大丈夫だ。それより…」
原田は手傷を負った男に目をやった。
「すいません、通してください。すいません。」
かすかに向こうの方で声がするかと思えば、それがだんだんと近くなり、1人の女の姿が現れた。
その女は、着物の裾から何かを取り出すと、男の傍に駆け寄った。女は持っていた箱を出すと、すばやく男の手をひき、手当てを始めた。その姿を皆、ただ呆然と黙って見ているだけであった。手当てを終えると、女は持っていた手拭いで強く縛り、
「医者に診てもらってください。」
とだけ言い残し立ち上がった。
女は表情も変えなければ、何も言わず、その場を去ろうとした。
人だかりから少し離れた場所に原田と総司はいた。
女は原田の手に気が付くと、原田の傍に寄りしゃがみこんだ。
そして原田の手を持った。
「俺は大丈夫だ。」
そんな女の行動に原田は、手を離そうとしたが、女は原田の言葉など聞きもせず手当てを続けている。
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