埋火
そんな強い行動に原田は何も言えず、ただその様子をみていた。
総司はそんな女の姿に目を奪われた。
「手拭い、持ってらっしゃいませんか?」
急にその女は総司の顔を覗き込むと、問いかけると、総司は手にしていた手拭いを女に差し出した。少し自分の頬が赤くなっていくのを総司は感じた。
後ろに結った長い黒髪は艶やかで美しく、そんな黒髪は白い肌を余計に美しく強調させていた。目鼻立ちがしっかりして整った顔は、誰が見ても目を奪われるものである。
総司は、いつしかその女に見とれていたのだ。
 手当てを終えると、女は先ほどと同じように、
「医者に診てもらってください。」
それだけ言い残して去って行った。
そんな女の後ろ姿をただずっと総司は見ていた。
「総司、おい、総司!」
原田は総司に呼びかけているのにもかかわらず総司は呆然と立ち尽くしていた。
「何ですか、原田さん。傷の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。それよりあの女…いったい何者だ?」
そう言って原田は女の去っていった場所をじっと見つめた。それから表情を変えると原田はニタニタと笑いながら総司に目を向けた。
戸惑う総司に原田は笑った。
「お前、ずっと見てただろ?あの女…いやあ、あの手つきはなかなかのものだ。それに美人だったな。」
にやりと笑うと総司の肩をポンと叩いた。
「いえ、私は別に…」
原田の言葉に総司はそう答えるだけだった。
 屯所に向かう途中で原田は
「医者にでも一応行ってくるか。」
と言い総司と別れた。
総司は、原田と別れて、屯所に向かう途中ずっと今日の出来事を考えていた。
あの女のことを…
屯所に戻ってからもずっと頭から離れず、考えていた。
なぜかあの女のことが頭から離れず、総司はそんなことを考えている自分に嫌気が差すほどであった。
『きっと明日になれば忘れてしまうであろう。』
総司はそう言い聞かせて、
『今日は早く寝よう』と考えていた。
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