埋火
蒼祢
「おい総司、お前、医者に行ったらどうだ。」
土方の低い声に総司は振り返った。総司が屯所の庭先に出ると土方か呼び止めた。
「何ですか、そんな真剣な顔をして。」
そんな土方の暗い表情とは一転、総司はにこやかに笑った。
「お前、妙な咳をしてやがる。」
土方は低い声でそう言うと、総司はまた笑い出した。
「いやですよ、土方さん。私を病人扱いして。よくあることです。」
それだけ言うと、総司は去っていった。
以前、土方は近藤にもこう話していた。
「総司のやつ、妙な咳をしてやがる。」
「歳、昔から総司のやつはあんな咳をしていた。」
と、そんな土方の言葉にも近藤は聞き流すだけであったが、あまりに土方が近藤にしつこく言うので、近藤も
「医者に診てもらった方がいいかもしれんな。」
と言い出した。
 しかし総司はいくら近藤や土方が医者に行くようにと勧めても
「嫌ですね、近藤さんも土方さんも私を病人扱いして。」
と言うだけで、絶対に医者には行かなかった。
 総司は近藤に頼まれていた薬を取りに静岡の元へ現れていた。
「近藤先生、私はただ先生のお薬をもらいに行くだけですからね。」
と、念を押すと絶対に自分は診てもらおうとはしなかった。
 寺田屋を過ぎて角を曲がると静岡の診療所が見えた。
「ごめんください。」
返事がしない。
「ごめんください。」
「はい、すいません。」
しばらくして、奥から女の声がした。
総司は振り返ると、一瞬言葉を失った。
目を大きく開けたまま、ただ呆然と立ち尽くしていた。














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