埋火
「あなたは…」
女も驚いて目を見開いた。
だがすぐに女は笑顔になると、総司もまた笑顔を浮かべた。
「先日はどうもありがとうございました。」
総司の言葉に女は頭を下げた。
「いえ、たまたま通りかかっただけですから。」
そこには、以前、総司が出くわした原田の手当てを行った女がいたのだ。
「今日は薬を取りに行くようにと頼まれておりましたので。」
総司はうつむいて頬を赤らめて微笑すると女は
薬を取り出し、先生から聞いていると答えた。
どうやら今日は先生は留守のようで、女が留守を頼まれていたようだ。
「最近ここで先生の助手としてお世話になることになりました。蒼祢と申します。以後お見知りおきを。」
「沖田といいます。」
総司も頭を下げると、どうしていいか分からず、
「では、私はこれで。」
と言うとさっさと診療所を出た。
 総司は再び、京での騒動があった日のことを思い出していた。
『あの女性は蒼祢さんというのか…』
そんなことを考えているうちに、また前のように、
『なぜあの女のことが頭から離れないのか』
総司はそんな自分に嫌気が差すほどであった。
きっと『きっと明日になれば忘れてしまうであろう。』
総司はそう言い聞かせて、
『今日は早く寝よう』と考えていた。
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