擬装カップル~私は身代わり彼女~
図書室でのキス
事件が起きたのは昨日の図書室での事。

私、森風香(もりふうか)は図書委員になった。

地味な委員を引き受けたのも、入学式に一目惚れした、渡瀬樹くんが図書委員長になったから。

放課後、毎日図書室の前の廊下を通り、こっそり眺めるだけで精一杯。

クラスも別で、とても物静かで、特定の男子としか話さない樹くんとの共通点が見つからなかった。

だから、どうにか近くに行きたくて図書委員になったの。

なのに、楽しみにしていた図書委員初日の昨日は、期待とは裏腹に、簡単な業務内容の確認を受けて終了。
樹くんと話すことはなかった。

絵にかいた様にトボトボと校舎を後にした。

どうにか話す切っ掛けはないかな?

樹くんいつも本読んでるから、同じ本読んで共通の話題を作るとか?

でも、樹くんが読む本って何か難しそうなんだよねー。

精神世界の何ちゃらとか、もう絶対、活字の多さと難解さで頭痛くなって、最後まで読めないよ。

私が最近読めた本なんて、現国の美鈴先生からお薦めして貰った、銀色夏生の詩集くらい。
美鈴先生も高校生の時に読んだらしい。

薄い詩集でさえ、返却日ギリギリまでかかってしまうんだから、樹くんと同じ本を読むなんて、無理だわ。

…って、そうだ!今日返却日だ!
せっかく持って来たのに、忘れてた。

慌てて校舎に戻り、図書室に向かう。

夕焼けの色が校舎の中に差し込んでいる。
もう校舎には人気もなく、図書室も誰もいない。
良かった、鍵は開いてる。

さっき教わった返却作業をして、詩集を本棚に戻しに行く。
銀色夏生、銀色夏生…あった!

本棚に詩集を戻そうとした、その時。
人の声が聞こえた。

「ダメ、学校で近寄らないで」

「そんな…外で会ってくれないのに、どうすればいいの?」

おお!何やらカップルが揉めてる。
さすがに今出ていくのはマズイよね。

ん?あれ?この声…

「こんなに好きって言ってるのに、何で分かってくれないの?美鈴ちゃん」

樹くんだ!

本棚に並んだ本の隙間から覗き込んだ先に、樹くんが立っている。

そして、その腕のなかで抱き締められてるのって、美鈴先生だ!

嘘…何これ?
< 2 / 16 >

この作品をシェア

pagetop