擬装カップル~私は身代わり彼女~

「美鈴先生ー?あれ?先生いないよ?」

「美鈴先生ー?どこー?」

廊下から美鈴先生を呼ぶ、女子生徒の声が聞こえた。

美鈴先生は樹くんから体を離すと、手早く手ぐしで髪を整え、ブラウスのリボンを括り直す。

「行かなきゃ。じゃあね」

「美鈴ちゃん…」

「渡瀬くん、また明日ね」

美鈴先生はそう言って、樹くんに少し笑顔を見せると図書室を出て行った。

樹くんは、そのまま壁にもたれズルズルと滑り落ち、地面にしゃがみ込んだ。

「…はぁ…」

そして、頭を抱えて何度も大きくため息をつく。

私は震える足で一歩進もうとしたら、足が見事に縺れ、本棚にぶつかってしまう。

その衝撃で、大きな音を立てながら、本が落ちて行く。

「誰だ!!」

ヤバイ!!見つかっちゃった!

樹くんがこっちに向かって走って来るのを感じながら、縺れる足で猛ダッシュで図書室を出る。

落ちた本に足止めされたのか、樹くんに追い付かれる事はなかった。

私は体育でも出した事がない様な、口の中に血の味がする程の全速力で走って、一目散に家に帰った。

それが私が目撃した昨日の出来事。
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