擬装カップル~私は身代わり彼女~
「私と付き合ってるフリすればいいんじゃない」
「…はっ?」
「彼女が居れば、美鈴先生との仲を怪しまれないでしょ?」
「それはそうだけど」
「私も『彼氏』が欲しいなぁーって思ってたし、
友達にもぼっちってバカにされずに済む♪」
「でも…」
「それにさぁー、
樹くんに拒否権ないって気付いてる?
断ったらバラしちゃうよ」
「なっ…!何言い出すんだよ!」
樹くんが私の肩を勢い良く掴む。
でも、そんな事に私は動じず、またニッコリと樹くんに微笑む。
「私の彼氏になってくれたら、見たの内緒にしてあげる」
「何それ?もしかして、友達が彼氏持ちだから、自分も同じのが欲しーいとかそうゆう、女子特有のやつ?」
「うん、まあ、そんな感じ」
「なるほどね。僕、昔から連れて歩くには自慢になるから、付き合いたいって言われるんだ。
女の子って僕の事をアクセサリー扱いするんだよね」
しばらく一点を見つめて樹くんが頷く。
「分かった。付き合う。
だから美鈴ちゃんとの事は内緒にして」
「分かった。内緒にするね」
私は樹くんに小指を立てて近づける。
「約束だからね!」
「うん。約束する。絶対口外しません」
樹くんが私の小指に自分の小指を絡めて、指切りをする。
「じゃあ、今から樹くんは私の彼氏。私は樹くんの彼女でよろしく」
「よろしく」
立ち上がろうとする樹くんの腕を引っ張り、座らせる。
「何するの!?」
「ねえ、彼氏なんだからキスしよ」
「はぁ??フリでしょ?
何でそんな事しなきゃいけないの」
「なんでよー。
昨日だって、あんなにぎこちなかったんだし、
練習しておかなきゃ、美鈴先生に笑われちゃうよ」
「それは嫌だ!」
キッパリ言うと、私の頬に触れる。
「…美鈴ちゃんだと思っていいの?」
「うん。いいよ。練習なんだから」
私はゆっくりと瞼を閉じる。
これでいい。これでいいんだ。
樹くんの側にいられるんだから。
それだけでいい…
「美鈴ちゃん…」
愛しそうに美鈴先生の名前を呟く樹くんの声を、私は耳に入れない。
その柔らかい唇の感触だけを感じる。
初めてのキスは、思っていたより胸が痛んだ…