愛してあげるから
母親は神経質になっていた。
いつ夫が来るかわからない。
いつ暴力を振るわれるかわからない。
「窓に近づいても駄目よ。
オジサンにバレたら、また痛い思いするわよ」
「……うん」
「泣いちゃ駄目。
叫んじゃ駄目。
零、アタシの言う通りにしなさい」
「……わかった」
母親の言葉は絶対。
だから俺は、母親の帰ってこない夜も、泣かないで我慢した。
泣いたら、あのお酒臭いオジサンが来る。
お母さんが泣いちゃう。
静かにしていないと。
お母さんの理想通りの子どもになろう。
そう思って、俺は夜になっても寝ないで、朝帰りする母親の帰りを待った。
だけどある日。
俺は捨てられたんだ。
何も入っていない冷蔵庫。
防寒設備の整っていない室内。
汚れて行くだけの部屋。
でも、何も言わなかった。
いつしか、空腹で動けなくなった。
俺は、閉じ込められたんだ。
南京錠により絶対に開かない扉が、俺が外へ行くのを阻止していた。