愛してあげるから
「おはよう」
低く、よく通る声。
たった4文字なのに、定番中の定番の挨拶なのに。
それだけで女子は叫ぶ。
…喉乾かないのかしら?
彼。
條崎零(じょうさき・ぜろ)。
変わった名前の彼は、転校してきてまだ1週間も経っていないあたしでもわかるほど、有名すぎる人だ。
王子様と言われているけど、またの名は六冠王(ろっかんおう)。
六冠王の名を持つ彼は、その名の通り、六冠を持っている。
1つ目の冠は、その容姿。
神様の芸術品と見間違うほど整った顔立ちに、モデル並みのしなやかな体躯。
常に眠そうにしていて、垂れ下がった目元を細めて笑う姿に、誰もが心を奪われる…らしい。
あくまで噂だけど、現状がこれだ。
単なる噂ではないと思う。
2つ目の冠は、成績。
無断遅刻や欠席、サボリが多い彼だけど、成績は軽々1位をとっている。
この学校は芸能人や財閥の人間など、殆ど出席出来ない生徒が通うことが多く、内申より成績重視。
彼が先生たちにも人気なのも、きっとそのせいだ。
…女の先生とかには、容姿目当てで人気なんだろうけど。
3冠目は、スポーツ。
眠そうに欠伸ばかりしているくせに、とても身軽で。
先生が誰か上手い人にやらせる時、その授業に彼が出ていれば、必ず彼が指名されるほど。
初めてのことであっても、器用に出来てしまうのだ。
……本当、羨ましい。
彼ほどあたしも器用だったら、すぐさま友達が出来たのに。