愛してあげるから
「ん、じゃーな一誠」
一誠?
一誠って、杉本くんのこと?
何で杉本くんに電話しているの?
通話を終えた零は、さりげなくあたしの手を握った。
「行こうか、ミスズ。
案内してくれるか?」
「う、うん……」
あたしは家へ行く途中、聞いてみることにした。
「零。
一誠って言っていたけど、何で杉本くんの家に電話しているの?」
「ん?
……俺いつも、一誠の家でご飯食べるから」
「どうして?」
首を傾げると、零は髪の毛をくしゃっとした。
キラリ、と車のライトを反射して、胸元の十字架が光った。
「……家に、帰りたくないから」
車が行き交う、賑やかな道路。
それなのに。
何も聞こえなくなった。
何も見えなくなった。
聞こえたのは、
見えたのは、
今にも泣きそうなほど潤んだ零の瞳と、
震えた声だった。