新婚の定義──嘘つきな君と僕──
その頃ユウは、ケイトとのコラボ曲のレコーディングを終えて帰り支度をしていた。

(良かった…今日は早く帰れるな…。)

なんとなく渡しそびれたままの誕生日プレゼントを、今日こそはレナに渡そうと思いながら、ユウはスタジオを出た。

「ユウ!!」

名前を呼ばれて振り向くと、ケイトが駆け寄って来て、ユウに抱きついた。

「おい、ケイト…いきなり抱きつくなって。」

「いいじゃない、会いたかった!!」

なかなか離れようとしないケイトの頭をポンポンと優しく叩くと、ユウは体からケイトの腕をほどいた。

「あのさ、オレには奥さんがいるんだよ?」

「それがどうかした?」

「それがどうかしたって…。」

呆れ気味に呟くユウにまたケイトが抱きつく。

「好きなんだからしょうがないでしょ?」

「でしょ?って言われても…。」

ケイトのされるがままになりながら、ユウは困った顔でケイトを見ていた。


会議室を出て階段を降りていたレナは、そんな二人の姿を運悪く目撃してしまう。

(まただ…。私のいないところでユウは…。)

足早に階段を駆け降りると、レナはギュッと口元を結んで、事務所を出た。

(私がなんにも知らないと思って…。)


ユウがその気なら、自分も嘘をついてみよう。

ユウが過去を隠し通すつもりなら、何も知らなずに騙されているふりをしよう。

そして、有りもしない過去をそれとなく話してみよう。

自分の知らない、知りたくもない相手の過去を知らされた時、どんなに不安になるか、ユウはわかっていない。

(もう、一人で不安になって泣くのはやめるんだから…。)

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