新婚の定義──嘘つきな君と僕──
1日の仕事を終えたレナは帰り支度を始めた。

(気が重い…。)

こんな日に限って、仕事が終わるのがやけに早いことが恨めしい。

(帰る場所なんて、私にはひとつしかない…。でも…今日は、なんだか帰りづらいな…。)

レナは荷物を手にノロノロと立ち上がる。

(仕方ない…。帰って夕飯でも作ろう…。)


事務所を出てすぐにスマホが鳴り、レナは足を止めてスマホの画面を確認する。

スマホは相川からの着信を知らせている。

「もしもし?」

「レナ、今、ちょっといいか?」

「うん。もう仕事終わったから。」

「ならちょうどいい。今から時間あるか?」

「うん、何?」

「レナに渡すものがあってな。忘れないうちにと思ってさ。」

「いいけど…。」

「メシ食って、一杯どうだ?」

「私、車だから、お酒は…。」

「そうか…。じゃあ、メシだけでも。」

(どうしようかな…。)

「レナ?」

「あ、ごめん。」

「あっ、そうか。レナ、人妻だったな。」

「まぁ…。」

(何?その人妻って響き…。)

「旦那に叱られちまうか。」

相川の言葉に、レナは急激にユウに対する怒りが湧いてきて、眉を寄せた。


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