新婚の定義──嘘つきな君と僕──
「そう言えば…渡したい物って、何?」

「あぁ…これ。」

相川は一冊のハードカバーの小説を鞄から取り出した。

「あっ…これ…。」

「そう。昔レナから借りて、返せないまんまでレナが大学卒業してバイト先辞めて…あれからすぐに上京したんだろ?」

「うん。よく捨てずに持ってたね。」

「捨てるわけないだろう。レナから借りた大事な本だぞ?」

「大袈裟…。」

ジントニックのお代わりをオーダーして、レナはグラスを傾ける。

「そうか?まぁいいや。長いこと借りっぱなしになったからな。今日は本貸してもらったお礼におごるよ。」

「えっ、そんなのいいよ。気にしないで。」

「あのなぁレナ、ここは素直に甘えとけ。女はそれくらいでちょうどいいんだから。」

「どういう意味?」

不思議そうに首を傾げるレナに、相川は小さく笑った。

「ちょっとくらいずるくても、女の弱さを見せて甘えられる女は、かわいいってこと。」

レナは不服そうに呟く。

「何それ…。」

「レナは苦手そうだよな。」

「うん…そういうの、できない。」

「だよな。でもオレは、レナのそんなところキライじゃない。」

「えっ?!」

「けっこう、気に入ってる。」

「……。」

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