新婚の定義──嘘つきな君と僕──
その日の夕方。

仕事を終えたレナは、タクミとヒロと一緒にこの間のスタジオにいた。

例の曲のレコーディングのためだ。

レナの透き通るような声に、ヒロは満足げに耳を傾ける。

「思った通り…いや、それ以上だな。」

「歌手になればいいのに。」

レコーディングブースの外では、ヒロとタクミがレナの歌声に惚れ惚れしている。

「オマエ、どう思う?」

「何がですか?」

「ユウのことだよ。」

「ああ…。相変わらずケイトに振り回されてますよ。はっきり突き放せばいいのに。」

「だよな。過去の負い目感じてるなら、突き放してやるべきだよな。本当に大事な女を傷付けてまで過去の女をいたわってなんになる?」

「自分はどっち付かずの態度を取っておいて、彼女のことを疑ってるんです、ユウは。」

「そんなの愛って呼べるのかねぇ…。」

ヒロはタバコに火をつけると、愛しげにレナを見つめた。

「娘の思う幸せにケチつける気はねぇんだがな…オレとしてはな、あの子が心から笑えるように、もっと幸せにしてやりたいわけよ。」

「ダディですもんね。」

「まあな。」

ブースの外でのそんな会話も露知らず、歌い終わったレナは、ブースの外のヒロとタクミの方を見た。

ヒロはマイクのスイッチをONにして、レナに声をかける。

「いいねぇ。オレの目に狂いはないな。」

レナは照れ臭そうに笑う。

「念のため、もうワンテイクだけ行っとくか。レナ、大丈夫か?」

レナがうなずくと、ヒロはレナを見て、優しく笑った。

曲が始まりレナが歌い始めると、ヒロはしみじみと呟く。

「ユウのヤツ…こんないい女、しっかり捕まえとかないと、後悔するぞ…。」

< 138 / 269 >

この作品をシェア

pagetop