新婚の定義──嘘つきな君と僕──
「…レナ…。」

ユウは自分の寝言で目を覚ました。

(レナ…いない…。)

夕べ抱きしめて眠ったはずのレナが、目が覚めると隣にいないことにユウは寂しさを感じた。

(もう仕事に出掛けたんだな…。)

リビングの上の朝食を眺めて、ユウは小さくため息をついた。

(いつも通りの朝…か…。)


初めて見るほど酔って帰ったけれど、夕べのことを、レナは覚えているだろうか?

タクミとの間に何があったのか?

それとも何もなかったのか?


“妻を騙して、おまけに疑ってるくせに、よく言うよ。”


タクミの言葉が、ユウの頭を巡る。

眠りながら“ユウ、行かないで”と呟いたレナの寝顔を思い出すと、ユウの胸はキリキリと痛んだ。

(オレはどこにも行かないって何度も言ってるのに…それでも、レナは夢に見るほど不安なんだ…。)

ユウの前では“私は大丈夫”と笑うレナ。

ユウに心配をかけないように“気にしないで”と笑いながら、あの華奢な体で、一人で耐えてきたのだ。

(オレは…耐えられないよ…。)


< 144 / 269 >

この作品をシェア

pagetop