新婚の定義──嘘つきな君と僕──

“今日はアナスタシアの撮影で
少し遅くなります。”


夕方、スタジオを出て、レナから届いた短いメールを見たユウは、小さくため息をついた。

(今日は撮影か…。)


間もなく始まるツアーのため、明日から少しの間、家を空けるユウは、自分がいない間にも、レナが他の男と会うんじゃないかと不安に駆られていた。

強くならなければ。

レナを信じなければ。

何度も何度も心の中で繰り返すのに、そのたびに胸の奥がきしんで、不自然な息苦しさを感じた。

(自分に言い聞かせるようなことか…?)

信じなければと思うほど、レナを疑う気持ちが大きくなっていく。

レナの言葉のどこからどこまでが本当なのか?

仕事で遅くなると言われたら、実際はどこで何をしていようが、それ以上何も聞けない。

自分の知らない間に、レナがどんどん遠くへ行くような気がした。


(どうせ、レナは遅くなるんだし…どっかでメシでも食って飲んで帰ろう。)

なんとなく、いつもとは違う店に行こうと思い立ったユウは、普段あまり歩かない通りにある一軒のバーを見つけて、そのドアを開けた。

カウンター席に座り、ビールと料理を適当にオーダーすると、タバコに火をつけた。

煙を吐き出し、ビールを飲む。

(付き合い出してすぐの頃、レナと二人で、よく飲みに行ったな…。)

二人で並んでお酒を飲みながら、いろんな話をした。

(いつもオレがビールで、レナは白ワイン…。子供の頃の話とか、学生時代の話とか…離れてる間の話もしたな…。楽しかった…。)

二人が休みの日には、手を繋いでスーパーへ買い物に行ったり、ドライブに行ったりした。

隣で楽しそうに笑っていたレナを思い出す。

(嘘ついてたとは思えないよ…。)

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