新婚の定義──嘘つきな君と僕──
店内が混み始め賑やかになってきた頃、カウンターでビールを飲んでいるユウの隣に、一人の男性客が座った。

その男はユウの顔を見て、驚いた顔をする。

「片桐先輩じゃないですか。一人ですか?」

「水野…。あぁ、うん…一人だよ。」

水野はユウににこやかに話し掛ける。

「ここで会うの初めてですね。」

「この店、今日、初めて来たから。」

「そうなんですね。僕は職場が近いので、よく来るんです。」

水野はビールをオーダーして、ユウにまた話し掛ける。

「片桐先輩、高梨先輩と結婚したんですよね。おめでとうございます。」

「あぁ…うん、ありがとう。」

水野はビールを飲みながら、歯切れの悪いユウの様子を窺っている。

「先輩たちって変わってますよね。」

「えっ?!」

水野の言う言葉の意味がわからず、顔をしかめた。

「結婚してても、お互いに別の人との付き合いは公認なんですね。」

「どういう意味だ?」

「片桐先輩、ケイトと付き合ってるでしょ?」

水野の思わぬ言葉に、ユウは眉をひそめる。

「付き合ってない。」

「あれ?そうなんですか?取材に行ってもただならぬ雰囲気だし、ケイトが片桐先輩の話ばかりしてるので、僕はてっきり…。」

「ロンドンでの音楽仲間だ。」

「ただの友達には見えなかったけど…。じゃあ高梨先輩と相川さんはいいんですか?この間、この店で二人でいるの見掛けましたけど…。」

「昔の知り合いなんだってさ。」

「へぇ…。じゃあ、僕も誘って大丈夫ですね。学生時代の後輩だから。」
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