新婚の定義──嘘つきな君と僕──
翌日、`ALISON´ライブツアー初日。

レナは密着取材のため、朝から相川と一緒に新幹線に乗っていた。

レナはコーヒーを飲みながら、手帳をめくって今日の取材の段取りを確認している。

隣の席で腕を組んで目を閉じていた相川は、うっすらと目を開き、レナの様子を窺った。

(この間より、表情が明るいな…。)

相川はほんの少しレナの方に顔を向けて静かに呟く。

「旦那と…うまく落ち着いたのか?」

「えっ?!」

「顔に全部出てる。」

「ぜ、全部?!」

突然の相川の一言に、レナは赤くなった頬を両手で押さえ、慌てふためいている。


(レナも、そういう顔、できんだな…。)

大学時代に一緒にバイトしていた時、レナはいつも、その表情を崩さなかった。

微かに笑みを浮かべることはあっても、思いきり笑ったり、怒ったり、驚いたり、そういう感情を表に出すことはしなかった。

口数が少なくて無駄なことも言わないけれど、大袈裟なお世辞を言ったり、人の悪口を言ったり、女の弱さを見せてまわりの男性に甘えるようなことも、絶対にしなかった。

相川は、レナのそういう正直で裏表がなくて、まっすぐなところが気に入っていた。

いつも寂しげなレナのことが気になって、レナに積極的に話しかけたり、わざとちょっかいを出したりしているうちに、他のスタッフよりは仲良くなれたと思う。

ただ、一緒にバイトをしている間、胸に秘めた想いをレナに伝えることはできず、そのまま卒業してバイト先を辞めた。

やっぱり一言だけでも気持ちを伝えようと思った時には、レナは既に上京した後だった。

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