新婚の定義──嘘つきな君と僕──
翌日の夕方、レナはヒロに呼び出され、撮影スタジオにいた。

「この間の曲な、ネット配信先行になったんだ。CDよりその方が早く公開できるから。」

「そうなんですか?」

「それで、今日はPV撮ろうと思ってな。オレの馴染みのエンジニアに頼んであるんだ。」

ヒロはレナの顔を見て、嬉しそうに笑う。

「うまくいったんだな。」

何も話していないのに、顔を見ただけで状況を掴んでしまうヒロに、レナは苦笑する。

「ホントにダディにはかなわないですね。」

「ちゃんとわかってもらえたのか?」

「ハイ。私、初めて大声で泣いて、怒って、ユウを責めちゃいました。でも、ユウが、自分の前ではそうしていいんだって。もっとわがまま言って甘えて欲しいって…。」

「そうか…。アイツもやっと男になったな。」

ヒロは満足そうに笑う。

「ユウは、生まれた時から男ですよ…?」

レナは、ヒロの言葉の意味が理解できず、何度も首を傾げた。

「大事な嫁のすべてを受け入れられるようになって初めて、夫になれるってことだよ。」

「結婚したら夫になるんじゃないんですか?」

「そうだよ。新婚だからな。まだまだお互いに遠慮することもあると思うが、少しずつ歩み寄って、本物の夫婦になっていけばいいんだ。」

「新婚の定義ってなんでしょうね?」

ヒロは思いがけないレナの言葉に、おかしそうに笑う。

「そうだな…。相手の懐探ってるうちは、まだまだ新婚じゃないか?」

「何年経っても?」

「そうかもな。」

< 177 / 269 >

この作品をシェア

pagetop