新婚の定義──嘘つきな君と僕──
「知らない私?」

「うん…。私、よく考えたら、離れてた10年間のユウを、何も知らないんだなって。知ってるのは、ヒロさんの元でみんなと一緒にロンドンで音楽をやってたってことぐらい。」

「そっか…。」

「それにほら…私たちは夫婦なんだし、ちゃんと私の元に帰ってきてくれるんだから…夫の過去をいちいち詮索するのもどうかなって。」

レナが少し寂しげに笑みを浮かべると、タクミが小さくため息をつく。

「遠慮なんかしなくていいじゃん。ユウとあーちゃんは、夫婦なんだから。」

「夫婦だからこそ、踏み込めない領域ってあるのかなって。これからずっと一緒にいるのに、相手の過去をこと細かに、根掘り葉掘り聞く訳にもいかないでしょ。」

「なんで?聞けばいいのに。少なくとも、相手とはなんでもないってことくらいは説明して欲しくない?」

「…そうだね…。何もなければね。」

「え?」

「知らなくていいことまで知って、私だけ傷付くのはつらいでしょ?特にユウは、私と離れてる間、いろいろあったみたいだから。」

レナの言葉に、タクミは眉を寄せる。

「それでもあーちゃんは、ユウといて幸せ?」

「…うん…。私だけが知ってるユウが、本当のユウだと思ってるから。」

「ふうん…。」

レナの寂しげな横顔を見ながら、タクミは黙り込んだ。

(本当は夫婦だからこそ、自分の知らない相手のことを、知りたいんじゃないのかな?)

テレビ局を出てタクミと別れ、レナはタクシーで事務所に向かい、明日の朝イチで必要な画像を探すためのデータを手に、再びタクシーに乗って帰宅した。


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