新婚の定義──嘘つきな君と僕──
家に帰り、レナからのメールを見たユウは、ガックリと肩を落とした。

(なんだ…。遅くなるのか…。)

レナへのプレゼントの入った紙袋をソファーの上に置いて、ユウはシャワーを浴びて冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

(夕飯…もう少し待ってようかな…。)

ソファーに座ってビールを飲みながら、ユウはぼんやりとタバコに火をつける。

(静かだな…。)

いつも待っていてくれるレナがいないと思うだけで、一人の部屋はやけに静かだ。

(レナはいつも、どんな気持ちでオレの帰りを待ってるんだろう…。)


一緒に暮らし始めて1年が過ぎた。

レナはいつも、ユウのために夕飯を作り、笑顔でユウの帰りを待っていてくれる。

最近はユウの帰りが真夜中になることが多く、レナは食べてもらえなかった料理を冷蔵庫にしまい込み、一人で涙を流しながら眠っている。

(寂しいよな、すごく…。)

ただ帰りの遅い夫を待つのが寂しいだけじゃなくて、レナの中にも何か不安なことがあって泣いているのかも知れない。

(知らない過去…か…。)

自分の過去を話すことができなくて、レナにも聞くことが出来ない。

(今日の急な仕事って…あの相川ってヤツと一緒じゃないよな?)

やけに親しげに“レナ”と呼ぶ相川は、一体レナとどういう関係なのだろう?

(まさか…昔の男…?いや、レナはオレ以外の男とは付き合ったことがないって言ってたし…キスもオレとしか、したことがないって…。)

レナの言葉を信じているはずなのに、途端に不安がユウを襲う。

(何疑ってんだ…。レナはオレだけのレナだろ…?他の誰のものにもならないで、オレの帰りを、ずっと待っててくれたんだろ…?そんなレナが、浮気なんてするはずない…。)

ユウは不安を打ち消すように、缶ビールを飲み干した。

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