ホラー短編集
めちゃくちゃな言い分。俺だって充分疲れてんだからな、と悪態を吐きつつペダルに足を掛ける。
「おお、すげぇ。登ってる登ってる」
立ち漕ぎをしても進んでるのかどうか怪しい。が、後ろで無責任に騒いでる奴への意地で、重たいペダルを懸命に前に押し出す。
「……あれ。これって」
「なん……っだよッ?」
「このシール……まだ貼ってたんだな」
「あ~……ッ目印に丁度……いいからなッ」
サドルの後ろに貼ったシール。確か元はといえば、トモヒロがガチャガチャで出て来たからって勝手に貼られたんだった。
「お前、恥ずかしいから速攻剥がすって言ってなかった?」
「そ……うだっけ? つか、やっと……半分きたッ!」
「…………」
後ろからの声が急に聞こえなくなった。
「おい……ッなんか……喋れ……よッ」
すっかり黙りこくったトモヒロに俺は話しかける。
「……なぁ、覚えてるか? 中学卒業ン時」
「中学……卒業?」
「ガッコからの帰りにさ、根性試ししたよな」
根性試し……いわゆるブレーキを掛けずに坂を下って、いかにギリギリまでブレーキを我慢できるか、という子供ながらの無謀な遊びだ。