ホラー短編集
そうだった。中学の卒業式のあと、俺はトモヒロに誘われてこの坂に来た。
そして、あとで笑い話になるはずだった約束を交わして俺達は自転車で坂を下っていった。
ブレーキを掛けない自転車はみるみる加速していって、三月中旬の冷たさの残る風が目に染みて痛くなった俺は坂の中腹辺りでブレーキを掛けた。
あまりに早いブレーキの軋む音に先を走っていたトモヒロは後ろにいる俺を振り返って……
下り坂をすでに下り切ったことに気付かないまま……
右側から走って来たトラックにトモヒロは自転車ごと飛ばされた。……即死だった。
俺は目の前で何が起こったのか理解出来ずにいた。
ただ、スローモーションのように、ボロ布のように空に舞ったトモヒロの姿が目に焼き付いて離れなかった……――。
事故を目撃したショックからか俺は記憶を一時的に失くした。
結果、俺の脳は都合よく事故の前日から高校に入学するまでの20日間の記憶を消去していたのだ。