ホラー短編集
 目を閉じて恐怖から逃れようとしたその時、男は夢から覚醒した。

 冬だというのに、頭から水を被ったように全身が汗でびしょ濡れになっている。

「なんて夢だよ……縁起でもねえ」

 妙にリアリティのある夢に未だに男の足はがくがくと震えている。

 夢だ――ただの夢。

 現実に戻そうと頭をぶんぶんと振る男。

 その時、男の目の端に何か白いものが映った。

 なんだ? 暗闇にぼんやり見えるそれに目を凝らす男。

 じっ、と男がそれを見ていると不意にそれが意思のある生き物のように身じろいだ。




 
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