ホラー短編集
「……!!」

 じりじりと少しずつ近づいてくるそれから男は目を逸らすことが出来ない。

 なんだ……なんなんだ? “これ”は――?

 やがて男の目が暗闇に慣れたのか、近づいてくるそれの姿形がはっきりしてくる。

 ただの白い塊に見えたそれには、真ん中にばさっとした黒い毛があり、両端からは肌色のしなやかな腕が伸びている。
 そしてそれは腕を使って男のいる方に移動している。

 来るな!! 男の口は動くのに声として発せられない。

 男の額から汗が滴り落ちる。

 逃げなくては――。そう思う気持ちとは裏腹に、なぜ腕で移動しているのか、という疑問が男に生まれる。

 しかし、その疑問はすぐに解決する。

 ゆっくりと近づいてくるそれは上半身だけで下半身がないのだ――。




 
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