ホラー短編集
 男の目の前にいるのは、あの時の被害者。

「行かないで……って言ったのに……早く助けて……って言ったのに…………」

「…………てくれ」

 男は喉から必死に声を絞り出す。

 赦してくれ――。

 男の両の目からボロボロと涙が流れ落ちる。

「俺が……悪かった! 頼む赦してくれ!!」

 腹の底から声を出し男が赦しを請うと、それはふっ、と男の前から姿を消した。

 いなく、なった? 俺は赦されたのか……?

「……っく……ははは」

 所詮こんなものか。泣いて赦しを請えば、霊なんてものはあっさり騙される。

「幽霊ってのは単純バカだな」

 さっきまで自由に動かせなかった男の体も、今は容易に動かす事が出来る。

「死んだ奴に俺の人生狂わされてたまるかよ」

 男は天井を仰ぎながらそう呟いた――。













「赦せないわ」

 
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